本研究は、実践薬学大講座 病院薬学研究室により実施され、研究成果は、研究成果は、International Society of Pharmacovigilance [ISoP] (国際ファーマコビジランス学会)のオフィシャルジャーナルである英文学術誌「Drug Safety」(掲載時Impact Factor: 4.0)に掲載されました。
研究背景と研究成果のまとめ
個別症例安全性報告データベースには、医薬品を使用した患者総数を把握するための情報が含まれないため、 一般的な臨床試験のように発症率を計算することはできません。そのため、解析は、通常、対象症例/その他の症例による不均衡性の概念に依存しています。不均衡性分析は、SDR(signal of disproportionate reporting)を探るために用いられる主な手法です。このような統計的シグナル検出法のうち、報告オッズ比は、計算が簡便なだけでなく、ロジスティック回帰分析により、共変量を調整できることからよく使用されています。
実際、CIOMS VIII(Council for International Organizations of Medical Sciences VIII)は、共変量(例:性、年齢、報告年、報告国)の調整が統計解析の感度および/または特異度を向上させる場合、有益な手法であると述べています。しかし、その一方で、個別症例安全性報告データベースにおける共変量調整の限界については長らく、調査されてきませんでした。そこで、本研究では、個別症例安全性報告データベースにおいて共変量を使用する際の重要な留意点とその理論について調査?検討しました。
1.データベース特有の留意点
①データの欠落
データベースへの登録が主に自発報告なため共変量に関する情報が欠落した症例が多く、データの欠落した症例が欠落していない症例と同じ分布をとるとは限りませんので、共変量に関する情報が欠落した症例が多いと適切に共変量を調整することはできません。
②特定群での副作用報告が少ない理由が不明
特定群での副作用報告が少ないことが、その群において、真に副作用の発現が少ないとは限りません。場合によっては、対象薬の使用が少ないため、見た目上、副作用の報告が少ないのか、副作用の発現は、実際には多いが、過少報告されているのか、研究者は把握することはできません。
2.統計上の留意点
①Sparse Data Bias
一般的にオッズ比は、最尤法を使用して推定されます。報告オッズ比も同様です。個別症例安全性報告データベースでは、アウトカム(ここでは副作用)と共変量の組み合わせが少ない場合、または共変量の不均衡な構造がある場合が多いため、報告オッズ比の最尤法による推定値はかなりの上向き(または下向き)のBiasが生じるSparse Data Biasが起こる可能性があります。
Sparse Data Biasに対処するためのいくつかの頻度論的アプローチとベイズアプローチも念頭に置く必要があります。
②Over?Stratification
多くの共変量による層別化は、いくつかの非常に小さな層と深刻な過剰層別化をもたらす可能性があります。この過度に階層化されたによって偽陽性率は減少させるが、偽陰性率の増加が懸念される。
また、医薬品安全性監視において、最も重要な変数の一つは併用薬ですが、併用薬のすべての組み合わせをルーチンで同時に調整することは、深刻な過剰層別化につながります。そのため、併用療法を定期的について調査するには、別の戦略を使用する必要があります。
本論文で示された個別症例安全性報告データベースにおいて共変量を使用する際の重要な留意点とその理論は、医薬品安全性監視業務におけるルーチン作業による共変量調整に一石を投じました。本論文の活用により、今後の適切な医薬品安全性監視の実施につながることが期待されます。
論文情報
- 雑誌名:Drug Safety (掲載時Impact Factor: 4.0)
- 論文名:Caveats of Covariate Adjustment in Disproportionality Analysis for Best Practices.
- 著者:Yoshihiro Noguchi, Tomoya Tachi, Tomoaki Yoshimura
- 論文URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s40264-024-01473-x
- DOI番号:https://doi.org/10.1007/s40264-024-01473-x
研究室HP
実践薬学大講座 病院薬学研究室:https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/byoyaku/