概要
酸化ストレスは活性酸素種(ROS)によって様々な生体機能を担っていることが知られていますが、その詳細については明らかになっておりません。そこで、当研究室では細胞内での酸化ストレスを綿密に制御することを目的とし、酸化ストレス誘導剤を光保護基で保護したケージド過酸化物の開発研究を行ってきました。これまでに、BhcTBHPおよびMitoTBHPを開発し、報告しております (Tsuji et al. Chem. Commun., 2023, 59, 6706). これらのケージド化合物は光照射によって速やかに反応し、細胞内へ酸化ストレス誘導剤であるter-butyl hydroperoxide (TBHP)を放出することができますが、細胞への影響が懸念されている紫外光(375 nm)の照射を必要とし、細胞内に高濃度で存在するグルタチオン(GSH)によって容易に分解されてしまうことが懸念点となっていました。
今回、これらの点を克服した新しいケージド過酸化物の開発を目指し、N6TBHPおよびN5TBHPの設計?合成を行いました (Figure 1a). 得られたケージド化合物をリン酸バッファー中でUV-visスペクトルを測定してみると、BhcTBHPでは観察されなかった長波長側へのテーリングがN5TBHPおよびN6TBHPで観察されました。可視光領域である455 nmでの吸収が認められたことから、455nmの光反応について検討したところ、N6TBHPが最も効率よくアンケージされていることがわかりました(Figure 1c)。
さらに細胞内を想定し、1 mM GSHでそれぞれのケージド化合物の安定性を調べたところ、N6TBHPの安定性がBhcTBHPと比較し大幅に改善されていることがわかりました (Figure 2)。
N6TBHPを用いた細胞でのイメージングにおいて、455 nmで細胞内TBHP放出することを確認しました (Figure 3)。安定性が増加したため、従来のもの (50 ?M)と比較して低濃度(10 ?M) で同程度のTBHPの放出に成功しました。
UV-visスペクトルの結果より、この反応性と安定性の差はそれぞれのケージド化合物の会合状態が関与しているものと考えられました。上記の性質を利用することで紫外光を必要としない細胞内でも安定に存在しうる過酸化ケージド化合物への展開することが可能になります。
本研究成果は、岐阜薬科大学薬化学研究室の辻美恵子助教、小磯信幸(澳门现金网_威尼斯赌场-【app*官网】学生)、西村友芙(澳门现金网_威尼斯赌场-【app*官网】学生(当時))、小川千波(澳门现金网_威尼斯赌场-【app*官网】学生)、平良遥乃(澳门现金网_威尼斯赌场-【app*官网】学生(当時))、平山祐准教授、永澤秀子名誉教授らによる共同研究であり、エルゼビア社によって出版される「Bioorganic & Medicinal Chemistry」に公開されました。
本研究成果のポイント
会合性を利用することで長波長照射によって光アンケージするペルオキシドケージド化合物の開発に成功した。本ケージド化合物は、GSHが豊富に存在する細胞内でも安定に存在することができるため、酸化ストレスの研究に大きく貢献することが期待される。
論文情報
- 雑誌名:Bioorganic & Medicinal Chemistry
- 論文名:Design and synthesis of visible light-activatable photocaged peroxides for optical control of ROS-mediated cellular signaling
- 著者:Mieko Tsuji * , Nobuyuki Koiso , Yufu Nishimura , Haruno Taira , Chinami Ogawa , Tasuku Hirayama , Hideko Nagasawa *
- DOI番号:10.1016/j.bmc.2024.117863
- 論文URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0968089624002773?dgcid=coauthor#m0005