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岐阜薬科大学

概要

岐阜薬科大学衛生学研究室の石田慶士 助教、辰巳佳乃子 澳门现金网_威尼斯赌场-【app*官网】学生、松丸大輔 准教授、中西 剛 教授らの研究グループは、岐阜医療科学大学 永瀬久光 教授、国立医薬品食品衛生研究所 諫田泰成博士、大阪大学大学院歯学研究科 田熊一敞教授との共同研究により、子供の脳発達に対する化学物質の影響を「光」を用いた生体イメージング(※1)で検出できる新たな手法を開発しました。

自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動症(ADHD)などの神経発達症(いわゆる発達障害)の原因の一つに発達期の化学物質曝露の影響が懸念されています。新たな化学物質が産業利用される際は、規定の毒性試験により発がん性の有無などについて安全性を確認した上で利用されますが、発達神経毒性(DNT)(※2)の試験については多くの費用?時間?労力がかかるという問題があり、規定の試験結果から必要と判断された化学物質に対してしか実施されていません。そのため多くの化学物質については子供の脳発達への影響の詳細が不明です。この問題の解決には、より効率的に評価できる検出法の開発が必要不可欠です。

研究グループは、脳の発達状態を「光」を用いた生体イメージングで定量的に検出できる遺伝子改変マウス(Syn-Repマウス)を作製しました。妊娠Syn-RepマウスにDNTを誘導する化学物質を曝露すると、産まれた児動物の脳の発光量が低下することが明らかとなりました。これらの結果から、Syn-Repマウスの脳の発光量を測定することで、DNTを誘導する化学物質を生きたまま効率的に検出することが可能であり、DNTの検出ツールとして有用である可能性が示されました。今回開発したSyn-Repマウスを用いることで、多くの化学物質のDNT評価が実現できれば、子供の脳発達に悪影響を与える化学物質を排除し、神経発達症の発症リスクを低減することで、より安心して化学物質と共生できる社会構築に貢献することが期待されます。

本成果は、Biochemical Pharmacology誌第206巻2022年12月号に掲載されました。

背景

近年、ASDやADHDなどの神経発達症に罹患している子供の増加が大きな社会問題となっており、その原因の1つとして、胎児期や乳児期における化学物質曝露のDNTが懸念されています。現在、新たな化学物質が産業利用される際は、発がん性の有無などを国際的に標準化された試験法を用いて評価し、その安全性を確認した上で利用されますが、既存のDNT試験については莫大なコスト(実験動物?時間?労力?費用)がかかるという問題があり、全ての化学物質についてDNTを精査することは非現実的です。実際に化学物質の安全性試験においては、規定の試験結果から必要と判断された化学物質に対してしか実施されていません。そのため、DNTが評価された化学物質は産業利用されている化学物質のうち、わずか0.2%程度に留まっています。したがって、化学物質によるDNTのリスクをより低減するためには、それを検出するためのより効率的な評価系の開発が必要不可欠です。

研究成果の内容

神経細胞は未成熟な状態から成熟した状態へと分化し、脳において神経ネットワークを構築しますが、そのプロセスが化学物質の影響によって阻害されることがDNTの誘発に繋がると考えられています。研究グループはこのプロセスの中で、成熟した神経細胞が神経ネットワークを構築する際に重要なシナプス(※3)形成に着目し、シナプス構成タンパク質であるSynapsin 1の遺伝子プロモーター(※4)の制御下でホタルルシフェラーゼ(Luc)(※5)を発現するように設計した、遺伝子改変マウス(Syn-Repマウス)を作製しました(図1)。

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図1.Syn-Repマウスの脳内では神経細胞分化ステージの最終段階である「シナプス形成」の時期にLucを発現することが予想される。


Syn-RepマウスにおけるLucの発現について調べたところ、特に記憶、注意、社会的行動等の認知機能を司る脳領域である大脳皮質で高い値を示し、脳以外の臓器ではほとんど検出されませんでした。また脳におけるLucの発現は、出生前から発現し始め、生後数日で発現のピークを示した後に、離乳期には発現量がピーク時の1/10程度にまで低下し、その後は低いレベルで安定的に発現しました。この発現パターンは、一般的に知られている脳のシナプス数の経時変化と類似しており、Lucの発現は脳の神経ネットワークの構築状態を反映している可能性が示されました。

またDNT評価におけるSyn-Repマウスの有用性を調べる目的で、胎児期に投与するとASD様の症状を誘導することが知られているバルプロ酸を妊娠Syn-Repマウスに投与し、産まれた児動物の脳の発光量を経時的に生体イメージングで定量解析したところ、非曝露群と比較してバルプロ酸曝露群で脳の発光が低下することが明らかになりました(図2)。さらに生体イメージングの結果が神経ネットワークの構築状態を反映したものであるのかを検証するために、大脳皮質の一部についての病理組織学的解析を行ったところ、バルプロ酸曝露群で神経細胞数の減少が確認されました。

以上の結果より、Syn-Repマウスの脳の発光は、発達期脳における神経ネットワークの構築状態を反映したものであり、この「光」を用いた生体イメージングを行うことで、化学物質のDNTを効率的に評価できる可能性が示されました。

研究成果の意義?今後の展開

本研究結果から、Syn-Repマウスを用いた脳の生体イメージングを行うことで、DNTを誘導する化学物質を生きたまま効率的に検出することが可能であり、DNTの検出ツールとして有用である可能性が示されました。このマウスを用いて、既存のDNT試験を補完する試験を構築することができれば、より多くの化学物質のDNTを評価することが可能となります。子供の脳発達に悪影響を与える化学物質を排除し、神経発達症の発症リスクを低減することで、より安心して化学物質と共生できる社会構築に貢献することが期待されます。

また神経発達症の誘発には化学物質のみならず、様々な母体環境の変化が関与することが知られています。今回開発した検出法は、化学物質以外の環境要因に起因する神経発達症の誘発を検出できると考えられます。本マウスを神経発達症におけるリスク要因のスクリーニング系として用いることで、神経発達症リスクマーカーの探索等、予防戦略の開発にも展開できると考えています。

本研究成果のポイント

  • 動物を生かしたまま脳神経の発達状態を「光」で検出できるマウスを作製しました。
  • 本マウスは神経発達症を誘導する化学物質の脳発達への影響を、既存の試験法よりも短期間で簡便に検出できました。
  • 本研究成果は、化学物質による神経発達症の発症リスク低減への貢献が期待されます。

用語解説

※1 生体イメージング
 生体内部を非侵襲的に可視化する技術。化学物質の影響を同一個体で経時的に観察できる上に、動物を殺さずに観察できるので、コスト面はもちろんのこと、動物福祉の観点からも通常の動物試験よりも利点が大きい。

※2 発達神経毒性(Developmental neurotoxicity: DNT)
 胎児期(出生前)から発達期(出生後)において化学物質や重金属に曝露されることで引き起こされる神経系に対する有害作用のこと。この有害作用が神経発達症の発症要因の1つとして懸念されている。

※3 シナプス
 成熟した神経ネットワークに必要不可欠な神経細胞同士をつなぐ結合部のこと。シナプスを介して神経細胞から神経細胞へ情報が伝えられる。

※4 ホタルルシフェラーゼ(Luc)
 ホタルから単離された酵素。生体内に基質であるルシフェリンが存在すると、その発光反応を触媒し、生物発光を誘導する。この生物発光シグナルは、産生されたLucタンパク量と相関することから、プロモーター活性を定量的に測定することができる。生体イメージングのレポーター分子としてよく用いられている。

※5 プロモーター
 目的とする分子をコードする遺伝子の上流に位置するDNA配列であり、転写(DNAからRNAを合成する段階)の開始を指令する。

本研究は、JSPS科研費(22H03339, 21K21332)、厚生労働科学研究費補助金 化学物質リスク研究事業(21KD1004)、日本化学工業協会が推進するLRI(Long-range Research Initiative;化学物質の環境影響および安全性に関する長期自主研究)により支援されました。

論文情報

  • 雑誌名:Biochemical Pharmacology
  • 論文名:Neuronal differentiation reporter mice as a new methodology for detecting in vivo developmental neurotoxicity
  • 著者:Keishi Ishida, Kanoko Tatsumi, Yoshiki Minamigawa, Kazuma Mori, Daisuke Matsumaru, Hisamitsu Nagase, Yasunari Kanda, Kazuhiro Takuma, Tsuyoshi Nakanishi.
  • DOI番号:10.1016/j.bcp.2022.115332

研究室HP

https://sites.google.com/gifu-pu.ac.jp/eisei-nakanishilab