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岐阜薬科大学

研究の背景

グリオーマは脳に存在するグリア細胞が腫瘍化した病気であり、悪性度によって大きく4つのグレードに分類されます。このうち、グリオブラストーマは悪性度および発症頻度が最も高く、急速に悪化する頭痛や認知症、運動麻痺などの症状を特徴とします。標準的な治療法として、まず手術による腫瘍組織の摘出が行われますが、グリオブラストーマは脳組織に染み込むように広がっていくため、完全に取り除くことができません。また、手術後に抗がん剤や放射線による治療を行ったとしても、5年生存率は10%程度とされており、ここ数十年の間で治療成績に大きな改善は見られていません。

最近の研究から、治療後にもがん幹細胞が体内に残っていることが、グリオブラストーマの治療を困難にさせる原因の1つとして知られつつあります。がん幹細胞は「がんの親玉」とも言われるように、自分自身のみならず、がん細胞をも生み出します(がん幹細胞性)。また、がん幹細胞は、既存の抗がん剤や放射線に対して治療抵抗性を持つことが知られています。したがって、がん幹細胞を制圧することができれば、グリオブラストーマの治療成績を大きく向上させ、根治が期待されます (図1)。しかしながら、がん幹細胞の機能がどのようにして制御されているのか、その詳細なメカニズムの全容は未だ明らかになっていません。

画像1.png図1:がんの根治には、がん幹細胞を制圧することが重要である。

研究グループはこれまでに、がん幹細胞のCDK8タンパク質の働きを阻害することでがんの進展を抑制することに成功しており、がん幹細胞を標的とする治療法の有効性を示しました(Fukasawa K. et al., Oncogene (2021))。また、同グループは、骨や脂肪を生み出す間葉系幹細胞の機能調節にSMURF2タンパク質が重要であること、さらにSMURF2の働きを制御する "スイッチ"(=Thr249(※4)のリン酸化)を発見しています(Iezaki T. et al., Development (2018))。

研究成果の概要


研究グループはまず、SMURF2がグリオーマ幹細胞の機能にどのような影響を与えているのか調べるため、患者由来のグリオーマ幹細胞を用いた実験を行いました。その結果、SMURF2の働きを抑える(=SMURF2抑制細胞を作製する)ことによって、がん幹細胞の機能の指標であるスフィア形成能が増強しました(図2A)。また、SMURF2抑制細胞をマウスに移植したところ、生存期間の大幅な短縮(図2B)と、腫瘍サイズの増大(図2C)が認められました。以上より、がん幹細胞の腫瘍形成能には、SMURF2が非常に重要であることが示されました。

画像2.png図2:グリオーマ幹細胞のSMURF2の働きを抑えると、グリオブラストーマが顕著に増大する(点線で囲まれた領域は腫瘍部位を表す(C))。

次に、SMURF2の活性がグリオーマの悪性度と関連しているかについて検討しました。グリオーマ患者から摘出した腫瘍組織を調べたところ、グリオブラストーマを含む悪性度の高い腫瘍組織では、SMURF2のThr249のリン酸化が著しく抑制されていました(図3)。すなわち、グリオブラストーマではSMURF2の活性化が抑制されていることが分かりました。

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3グリオブラストーマ組織ではSMURF2Thr249のリン酸化が抑制される。

そこで、SMURF2発現細胞及びSMURF2のThr249がリン酸化されないグリオーマ幹細胞(=SMURF2リン酸化不活性化細胞)をそれぞれ作製して観察したところ、SMURF2発現細胞ではスフィア形成能が低下するのに対し、SMURF2リン酸化不活性化細胞では逆に増強していました(図4A)。さらに、各細胞をマウスに移植したところ、SMURF2発現細胞では生存期間の延長と腫瘍サイズの減少が見られたのに対し、SMURF2リン酸化不活性化細胞では生存期間の短縮と腫瘍サイズの増大が認められました(図4B, C)。以上のことから、SMURF2によるがん幹細胞の機能調節には、Thr249のリン酸化状態が重要であることが明らかになりました。

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4 SMURF2Thr249のリン酸化状態によって、グリオブラストーマの進展程度が変化する(点線で囲まれた領域は腫瘍部位を表す(C))。


最後に、SMURF2はどのようなメカニズムでグリオーマ幹細胞の機能を調節しているのかを検討しました。その結果、がん幹細胞の機能調節に重要なTGF-β受容体の分解をSMURF2が促進させていることがわかりました。つまり、SMURF2TGF-β受容体の分解を介してグリオーマ幹細胞の機能を抑制していることが示唆されました(図5)。

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5 SMURF2Thr249のリン酸化によって、グリオブラストーマの発症?進展が抑制される(図中のPはリン酸化を示す)。

研究成果の意義?今後の展開

研究グループは、SMURF2がグリオブラストーマ幹細胞の制御因子であることを発見しました。また、そのメカニズムとしてThr249のリン酸化が重要であること、さらに、活性化したSMURF2TGF-β受容体の分解を介して、グリオーマ幹細胞の機能を調節していることを世界で初めて明らかにしました。

本研究によって「がん幹細胞の機能を制御するメカニズム」の一端が明らかになったとともに、「がんの根治には、がん幹細胞の制圧が重要である」という説に新しいエビデンスを付与することができました。現在、がんの根治を指向した「がん幹細胞標的薬」の創製へとつなげるべく、SMURF2のThr249のリン酸化を調節する(="スイッチ"のON/OFFを切り替える)ことができるような薬剤の探索に取り組んでいます。
さらに、本研究成果はグリオブラストーマに限らず、がん幹細胞の存在が明らかとなっている種々の難治性がんにも当てはまる可能性があることから、アンメット?メディカル?ニーズ (※5) の解消にも貢献できることが期待されます。

本研究成果は、岐阜薬科大学薬理学研究室の平岩茉奈美大学院生(日本学術振興会特別研究員)、岐阜薬科大学薬理学研究室の深澤和也助教、家崎高志助教、岐阜薬科大学?岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の檜井栄一教授らにより英国学術雑誌『Communications Biology』に掲載されました。

本研究成果のポイント

  • 「がん幹細胞」は抗がん剤や放射線といった従来の治療法に対して抵抗性を持っており、「がん幹細胞」の制圧によってがんの根治が期待できます。
  • グリオブラストーマ患者のがん組織において、SMURF2の特定の部位のリン酸化 (※2) が低下していることを見出しました。
  • SMURF2の特定の部位のリン酸化を調節する(=SMURF2を活性化させる"スイッチ"を切り替える)ことで、「がん幹細胞」の機能が制御されることを世界に先駆けて発見しました。
  • SMURF2はTGF-β受容体 (※3) の分解を介して「がん幹細胞」の機能を抑制していることを明らかにしました。
  • 以上の成果は、様々ながんの「がん幹細胞」を標的とした、革新的な新規抗がん剤の創製に貢献できることが期待されます。

論文情報

  • 雑誌名Communications Biology
  • 論文名

    SMURF2 phosphorylation at Thr249 modifies glioma stemness and tumorigenicity by regulating TGF-β receptor stability

  • 著者:Manami Hiraiwa, Kazuya Fukasawa, Takashi Iezaki, Hemragul Sabit, Tetsuhiro Horie, Kazuya Tokumura, Sayuki Iwahashi, Misato Murata, Masaki Kobayashi, Akane Suzuki, Gyujin Park, Katsuyuki Kaneda, Tomoki Todo, Atsushi Hirao, Mitsutoshi Nakada and Eiichi Hinoi
  • DOI番号10.1038/s42003-021-02950-0

研究室HP

https://sites.google.com/gifu-pu.ac.jp/labo-yakuri