概要
ボロン酸誘導体は、2010年のノーベル化学賞で有名な鈴木-宮浦カップリングの原料として広く使用されています。しかし、従来のボロン酸誘導体は、取り扱いが難しく、他の有機化合物とは大きく異なるノウハウが必要になってきます。例えば、最も広く利用されるボロン酸誘導体であるピナコールエステルでは、シリカゲルカラムによる精製を行う際、シリカゲルの選択や溶出速度などを間違うと収率が大幅に低下してしまいます。また、ボロン酸誘導体の中には不安定で、一般的な鈴木-宮浦カップリングの塩基性条件で分解してしまうものも多く、収率低下は大きな問題となります。
今回、著者らは、安定で誰でも簡単に取り扱えるボロン酸誘導体を開発することに成功しました。具体例を図1に示します。例えば、一般的なボロン酸のピナコールエステル1bを薄層クロマトグラフィー(TLC)上にスポットして展開するとスポットした位置から化合物が吸着しながら登っていく(テーリングする)のに対して(左側)、今回開発した新しいボロン酸誘導体1aは綺麗なスポットとして観測(右側)されています(図1A)。この事実はボロン酸を精製する際に大きな利点になります。また、1aを原料として鈴木-宮浦カップリングを行った場合、従来のボロン酸1cやピナコールエステル1bを使用した場合に比べてビアリール類2の収率が格段に高くなります(図1B)。本研究成果は、今後の化学の発展に大きく寄与するものと期待されます。
図1.新しいボロン酸誘導体の特徴
本論文は、SNS上で既に大きな反響を得ており、全科学研究論文のTOP5%に入るオルトメトリックスコア94を得ています(澳门现金网_威尼斯赌场-【app*官网】4年5月20日現在)。また、論文発表後10日余りで、1年間で最も読まれたOrganic Letters誌の論文TOP20にランクインしており(15位:澳门现金网_威尼斯赌场-【app*官网】4年5月20日現在)、本論文の注目度の高さが伺えます(https://pubs.acs.org/action/showMostReadArticles?topArticlesType=recent&journalCode=orlef7)。
本論文はCover Artにも採用されました。エチル基がホウ素の空軌道をスペース(宇宙)を介して保護している様子を表現しました(図2)。背景のスペース(宇宙)には、本研究の無限に広がる可能性を込めています。
図2.OLのCover Art
なお、本研究は、大阪大学との共同で実施した研究であり、精力的に研究を推進してくれた岡直輝さん(大阪大学所属、岐阜薬科大学の特別研究学生)、論文作成時に適切なアドバイスを頂いた赤井周司先生に心より御礼申し上げます。
本研究成果のポイント
- 新しいボロン酸誘導体はシリカゲルクロマト中に安定で、極めて取り扱いやすい。
- 鈴木-宮浦カップリングの原料として使用することで、カップリング生成物であるビアリール類の収率が上昇した。
論文情報
- 雑誌名:Organic Letters
- 論文名:Aryl Boronic Esters Are Stable on Silica Gel and Reactive under Suzuki-Miyaura Coupling Conditions
- 著者:Naoki Oka, Tsuyoshi Yamada, Hironao Sajiki, Shuji Akai, Takashi Ikawa
- 巻号:24巻、19号
- ページ:3510-3514
- DOI番号:10.1021/acs.orglett.2c01174